【読書メモ】多様性の科学

随分前に「多様性の科学」という本をよんだ際に書いたメモの転記

著者は「失敗の科学」で有名なマシュー・サイドさん

なぜCIAは9.11の兆候に気づけず、被害を未然に防ぐことができなかったのか?

超優秀な集団でも見抜けなかった世界最大級のテロ事件

CIAといえばアメリカに拠点を置く世界有数の情報機関で、世界中から国家安全保障に関する情報を収集・分析・処理をしている集団で、そこに在籍する人材は優秀な人ばかりなのは言うまでもない。しかし、そんな超優秀な人材集団もテロの予兆が多発していたにもかかわらず、9.11を未然に防ぐことができなかったのである。

画一的な集団が陥る罠

ではなぜCIAは、あの世界一甚大なテロ事件を未然に防ぐことができなかったのだろうか?その答えは本書のメインテーマである多様性にある。CIAは毎年優秀な人材のみを採用し、国家の安全を守る組織づくりに力を入れていた。超名門大学卒のエリートな白人男性を優先的に選考していたため、国籍や性別などに大きな偏りがあり、白人以外の国籍は片手で数えるくらいだった。当然優秀な人材を集めることができれば、最高の結果を出せるチームが出来上がると考えるのが普通である。しかし、その考えは多様性を排除することと等しく、多様性のない集団は思考が偏り同じような視点から物事を見ることしかできなくなり、問題解決にいたらなくなる。その結果CIAは9.11が発生するまでに、事件を予想できるような兆候をみすみす見逃していたのである。

ある町の政策が失敗した理由

スウェーデン北部のカールスコーガという町がある。その町では年間平均170日にのぼる降雪量で、除雪作業は日常の光景だという。そんなカールスコーガではある問題を抱えていた。それは転倒などによる凍った道路での歩行者の負傷の多さである。ある統計では、ドライバーの約3倍も歩行者が負傷しているという報告がある。歩行者のほとんどは女性で、男性の大半は車に乗って通勤する割合が高かった。これだけ歩行者が負傷していると、町全体の医療コストも上がり生産性も下がる。経済損失規模でいうと一冬だけで年間4億円にのぼるという。そんな問題が起きていたにも関わらず、カールスコーガの町議会はその問題を見過ごしていたのである。なぜ莫大な医療コストが掛かっているのに町議会は見過ごしていたのか?

 それは町議会の議員構成に多様性が欠けていたからである。というのも議員の大半が男性で占められており、政策を決める議会では女性目線での議論はなされていなかった。男性の割合が多いと当然男性目線で議論が進められるので、結果的に男性に有利な政策が決まっていく。そのため女性側が政策の恩恵を受ける機会は少なくなるどころか女性の問題が解決されないのでますます女性が生活しにくくなっていく。女性議員を増やしていれば、今までの画一性は軽減されこのような問題は防げたかもしれない。

支配的なリーダーは多様なアイデアを阻害する

内向的なメンバーは、支配的なリーダーによって自分の意見を押さえつけるようになってしまう。

リーダーの聞きたいことだけを発言するようになってしまい、オリジナリティ溢れる意見は殺されてしまう。会議では誰かの意見に賛同することばかりが優先されてしまうので、結局権威が高い人や声の大きい人の意見に流されてしまう。大事なのはその意見の妥当性を考え議論することなのに、「リーダーが言ったから正しい」みたいな雰囲気で会議が進められ、最悪の結果に終わってしまう可能性が高い。個人的に、会議とは誰もが納得してくれるような意見をいうのではなくて、本質的な問題を見極めて意見を出し合い吟味する作業だと、考えを改めていきたい。どうしても、同じ組織にいる時間が長くなるほど今の関係性を壊したくなかったり、集団から孤立したくないと思う傾向が強くなる。それは人間の本能なので、つい反対の意見を言うのを躊躇ってしまう。集団の関係維持と言う面で見ればその方法はいいのかもしれないが、会議はあらゆる問題を解決するために意見を出し合う場という目的を忘れてはいけない。

Amazonが実践する「黄金の沈黙」とは

会議の最初の30分間は事前に共有された議題をひたすら黙読する。その効果は2つある。一つは議題を出した人自身がその議題について深く考えるようになる効果。もう一つは他の人の意見を聞くにその議題について考えることができる効果。特に後者は会議が始まってから議題について考えると、他人の意見に多少なりとも影響されるので多様な意見は出づらい。

不確実性の高い状況で起こること

ある心理学の実験では、人は不確かな状況や、自分でコントロールできない状況を嫌うという結果が出ている。不確かな状況に直面すると、我々はある種の支配的なリーダーを支持して、秩序を取り戻そうとする傾向がある。いわば自分の不安を他人の主導力で「埋め合わせ」するのだ。これはときに「代償調整」と呼ばれる。

マシュー・サイド. 多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1962-1965). Kindle 版.

良いアイデアを生み出す技術

前提の逆転

今まで当たり前と考えられていたものを真逆の状態と仮定して思考を進めること。例えば「じゃんけん」の当たり前を考えると「手を使う」「じゃんけんぽんの掛け声で行う」といった点が考えられるが、これらを真逆の状態にするとこうなる「手を使わない」「じゃんけんぽん以外の掛け声で行う」と言った具合。こうすると今までとは異なる枠組みで物事を考えることができ新しいアイデアが生まれやすい。ここで重要なのは出したアイデアがうまくいくかどうかではなく、異なる視点で物事を見つめ直すということである。

前提の逆転でうまくいった例

タクシー会社の当たり前と言えばいうまでもなく「タクシーを持っている」だが、その逆は「タクシーを持っていない」となる。そんなことを言ったら頭がおかしいと思われるが、その発想は今当たり前となっている。Uberである。日本ではUber eatsが有名のUber。考えてみればUber eatsも「出前はその店のものしか食べられない」という前提の逆転によって大ヒットを起こしている。